
今、辛い恋愛で苦しむあなたへ。恋人との別れ、諦められない片想い、許されない恋。何が辛いって、誰にも相談できないことではないだろうか。
こんな話をしたらキモがられるだろう、ウザがられるだろうと思い、誰にも話せない。
ネットとかで「恋愛 冷たい あえて」とか蛙化現象とか調べたりしてあっという間に夜が深くなってたりする。少しでも相手に気があるのを信じて。
ただ、あなたの苦しみは今日この瞬間、解放される。本当に良かった。
ハッキリ言おう。今の状態で相手が振り向いてくれる事は絶対にない。ただ、大丈夫。諦める必要もない。そして、そんなあなたは実は超絶魅力的なのだ。
本作は終演した。配信もない。見る手段はない。
本作は劇団グラハムヘルツによる4回目の公演である──と言ってもピンと来ないかもしれない──伊藤瑞貴という、魂を削って芝居をする人の4作品目という方が伝わりやすいだろうか。
母と娘の呪いを描いたヘビーな前作『良き女と、書いて。』終演時には、ただただうなだれており、本当に心配になってしまった。こう書いておいて何だが、本当に無理しないでほしいと思っている。
ただ、このように気骨を持って芝居をしてる伊藤瑞貴という人がいることを知って欲しい。
物語はオーディションから帰ってきた主人公・田中あずみが、恋人の康弘から別れ話を切り出されるところから始まる。決定的な言葉を聞いてしまう前に、思わず電話を切ってしまう。あずみは、康弘の言葉尻にわずかな希望を捻り出し、別れを信じようとしない。
そんな調子で彼女がハイテンションにあれこれ一人問答をするのが前半の見どころだ。伊藤氏が全身から表情筋まで、使える人体を全て使い、全力で七転八倒する様がエネルギッシュにコミカルで観客を楽しませてくれる。
YOU ARE NOT ALONE.
このあたりは、笑いつつも、その切実さに心当たりがある人も少なくないのではないか。どう考えても自分には気持ちが向いていない相手に対し、些細な言動を都合よく解釈して、大丈夫だと自分に言い聞かせる。冷たいのは、そっけないのは、連絡が返ってこないのはあえてで、あの人は自分を悪く思っていないはず。
だけどこの問答は誰にも相談できない。人に話したら、大抵の人は正論をぶつけてきやがるから。私たちの関係なんて何も知らないくせに! 知りもしようとしないくせに!
だから頭の中で永遠に一人会議をするしかない。本作はあずみが部屋を歩き回って延々と一人問答し、時に観客に問いかけるが、内容に対して一人芝居というアプローチがマッチしていて素晴らしい。
前作『良き女と、書いて。』も母と娘の相似性を一人二役で表現して見せたが、劇団グラハムヘルツの演劇には一人芝居という表現手法がテーマと合致しているから、物語が力強く刺さってくる。
正直なところ、個人的には前半部のギャグはノリきれなかった。好みとしてはひとつひとつのギャグがもうちょっとあっさり目の方が良かったかなと思うが、笑いの感性は人それぞれなのでこればっかりは仕方ない。
あずみは色々考えて康弘に電話をするが、その電話番号は現在使われていなかった。なんと彼とは3年前に別れており、あずみは引きこもり状態で彼に電話をかけ続けていたのだ。ここからの後半部は一転、シリアスになっていく。
そう、前半部のギャグはフリだったのだ。
なぜ二人は別れたのか
「男なんていくらでもいる。でも康弘は一人しかいない」というセリフが切ない。なぜ康弘と別れることになったのか? 劇中では明示されない。しかし端々にヒントが散りばめられている。
冒頭、あずみは康弘が優しすぎると呟く。「自分はモテないから浮気する余地も意思もない」と疑わない康弘は、よく女友達の相談にも乗っているらしい。この件が起点となり、やがてあずみの重さに耐えられなくなってしまったのかもしれない。
「就活なんてできなかった。あんな大嘘つき大会、よくみんな平気な顔してできるよね!みんな嘘つきじゃん!」という冒頭のセリフも、あずみを象徴したエピソードだと思う。実は大嘘をついていたのはあずみだったというオチのフリなのだが、要するにこの人は不器用な人なんだと思う。この気持ちは痛いほどわかる。むしろ最近、ちょうど就活の時期をよく思い出してたところだった。
大学に入った瞬間、同級生がいきなりみんな平気で大酒を飲み出して、髪染めて、平気で軽い恋愛ができて、そんなみんなに気持ちが追いつけないうちに、就活になったらみんな黒染めしてスーツ着てちゃんと就活し出して、その時の気持ち悪くなった感じを今でも覚えている。
大学生と聞くととにかく羨ましい気持ちになるが、実際はあの頃みんなとにかく何かに焦ってたんじゃないかって思う。
今、恋愛で辛いあなたへ
それはさておきこの不器用なあずみという人は、康弘とのエアー電話時に愚痴を延々こぼしているが、付き合っている時の会話では彼に好かれるであろういい女を演じていたのではないか。矛盾だらけの不器用な人である。でも、そんな彼女は魅力的だったと思う。みんなもそう思ったでしょう?
今、恋愛で辛いあなたへ。七転八倒するあなたは、とても人間的で魅力的だと思う。本人からしたらそんなこと知ったこっちゃない、とにかく早く助けてくれと思うだろうけれど、人生の中でそういう時期はそう長く無い。実は、これは、ある種の青春時代なのだと思う。
人は恋愛した時、自分と向き合わざるを得なくなる。辛ければ辛いほどに。それは相手に振り向いてもらうために自分自身を見つめなければならないから。
でもそれは見方を変えたら、青春そのものだと思う。恥を晒してトライアンドエラーを繰り返し成長していく。そして何より、ちょっとした事で踊り出すほど嬉しくなったり、立てなくなるほど辛い気持ちになったりする。
こんなに「生」を享受する瞬間は、人生でほんの一瞬なのではないか。
青くて、キモくて、痛い
私もかつて片想いに狂っていた時期がある。思い返すと本当に恥ずかしくて、キモくて、痛い。
ただ、その人に久しぶりに会った時、もはや何の感情も湧かなかった時の気持ちは言葉にできない。かつてあれほど熱かった自分の気持ちはどこに行ってしまったのだろうか。
もはやあの頃自分が何を考えていたのかすら思い出せなくなってしまった今、あの狂ってた日々は全くの無駄だったが、あの頃の気持ちはかけがえのない何かだったのではないかと思っている。
そしてここからがやっと本題であるが、恋愛は人を覚醒させるのだ。相手に振り向いてもらうために自分自身と向き合わざるを得なくなるのを四六時中やっていると、やがて自分の人生を考えるようになる。本当の自分の人生が始まる。
ハッキリ言って、あの人は今のあなたを好きになってはくれない。どうしても。じゃあどうするか?
答えは簡単で、結局、自分のやるべきことをやるしかないのだ。自分の好きな事、あるいはやってて嫌じゃない事。ずっとやってみたかった事。
それは趣味でも仕事でもなんでもいい。今、辛くて仕方ないと思うが、実は人生の大きなチャンスが巡ってきているのだ。
お詫び
ラスト、電話が鳴る。それは康弘ではなくオーディションの結果だった。あずみは自分の辛い気持ちを、ジャン・コクトーの『声』を演じる事で昇華させる。
今、「コクトー」とか知った風に書き散らしてるが、実は全然知らなかった。ただ、非常に似た映画を思い出した。『桐島、部活やめるってよ』という映画である。
これはベケットの『ゴドーを待ちながら』を下敷きに、全生徒の憧れの的である完璧な高校生・桐島が失踪した事で皆のアイデンティティが揺らぐ様を描いた小説の映画版である。ちなみにベケットもゴドーも映画の原作すら読んで無いが、またもや知った風に書いている。ともかく、高校生たちは消失感を起点に自分の人生を考えるきっかけを得て、それぞれの成すべきことに気づいていく。
てか、ここまでグダグダ書いたのは、全て町山智浩の『桐島、部活辞めるってよ』評で述べられていた事をまんま言ってるだけです。すみません、さも自分の意見のように言いました。ぜひ一度聴いてみてくださいね。あと氏の『愛がなんだ』評もぜひ併せてチェックしてみてください。
劇団グラハムヘルツ第100回公演までやりましょうよ!
しゅーちゃくは執着の終着でもある。それは自分にとって大切な何かを見つけ、打ち込む事。それはきっとすぐ近くにあると思う。もし無ければ探しにいこう。
ちなみに長年片想いに苦しんでいた知人がいたのだが、自分の熱中できる事に打ち込みつつ何年も想い続けたら無事に結ばれたらしい。常識では考えられない出来事、アンビリバボー。あなたの身に起こるのは明日かもしれません。
【興業記録】
劇団グラハムヘルツ 第3回公演
『部屋としゅーちゃくと私』
演出・出演|伊藤瑞貴
脚本|伊藤瑞貴、掛池師走
上映日|2023年10月12日 14:00
場所|APOCシアター
料金|2,500円
来場|23人程度

・参考文献
愛がなんだ
桐島、部活辞めるってよ
恋は雨上がりのように
全てはモテるためである
伊藤さん、あと『Adoのオールナイトニッポン』と佐藤ミケーラ倭子のYouTubeぜひチェックしてみて下さい。多分ハマると思うのだが!
